【とんちき坊やとなすび王の国】

【とんちき坊やとなすび王の国】は、太田剛気の絵物語作品【とんちき坊やとまぬけのろんシリーズ】の作品の一つ。制作年は2021年~2022年で、実質的なシリーズ第1作目にあたる。

タイトル

【とんちき坊やとなすび王の国】は、シリーズで最初に制作された絵本形式の作品である。第1作目にあたる作品であるため、シリーズ全体の世界観を明示することに重きを置いた構成となっており、なすび王の国へやってきたとんちきとろんの物語が、絵画と平易な文章によって描かれている。

本作では、シリーズの基本となる物語展開のフォーマットが示されている。すなわち、「とんちきとろんが旅先に着く」→「現地で歴史的出来事に遭遇」→「その顛末をとんちきとろんが見届ける」という流れである。その上で、国家規模の歴史的大事件と、とんちきとろんのような愉快なキャラクターたちを同時に存在させながら物語として表現することが最大の狙いとなっている。

あらすじ

 
なすび

今回とんちきとろんがやってきたのは<なすび王の国>。なすび族が支配する野菜系の民族の国である。

この国では今、青なすびと赤なすびが激しく対立していた。資本家階級の赤なすびと労働者階級の青なすびが互いに階級政党を建て、国家運営の主導権を巡る争いを続けているのである。とんちきとろんがやってきた時期にも、赤なすび政府の税制改革に反対する青なすびの反政府デモが首都で繰り広げられていた。両者の対立はついには武力衝突へと発展し、国内は混乱状態に陥る。赤なすび政府が非常事態宣言を発令し、青なすびのデモ隊に対して実力行使による排除に打って出たためだ。政府の強硬姿勢は反政府派のより強硬な反発を呼び込み、事態の収拾は困難な状態に陥ってしまう。

この混乱状態を終わらせるべく、緑なすびの王太子はなすび族以外の野菜系民族と共謀してクーデターを決行する。父である現国王と、国民に銃を向ける決断を下した赤なすび政権の幹部らを一斉に拘束し、現行憲法の停止・暫定政府の設置・王太子の国王即位などが実行に移された。

クーデターの結果、事実上の内乱状態に陥っていた国内の騒動は鎮静化され、つかの間の平和が訪れた。一連の顛末を眺めていたとんちきとろんは、胸中にさまざまな複雑な想いを抱きつつ、次なる旅の目的地へ向かって出発するのだった。

なすび王の国

 
なすび半島の地図(なす暦5年ごろ)。

詳細はなすび王の国を参照。

〈なすび王の国〉は、〈列島〉南部に位置する立憲君主制国家。前身である<なすごん王国>の初代国王なすごん一世が王政を施行して以来、段階的な拡大を経てなすび族がその他の野菜系民族を支配してきた。

なすび族は品種によって緑なすび・紫なすび・赤なすび・青なすびに分かれており、各品種はそれぞれ王族・貴族・資本家・労働者という各社会階級に分けられている。この内、緑・紫両なすびは中立を守っているが、赤なすびと青なすびは直接的な利害関係を持っていることもあってお互いが強い敵対感情を抱いて対立している。

こうした事情を反映して、政治は王族の緑なすびと貴族の紫なすびは儀礼的な役割しか与えられておらず、赤なすびらが建てた赤なす党と、青なすびらが建てた青なす党がそれぞれ二大階級政党として交互に政権を担う体制が確立した。この体制を、とまと族・もろこし族・にんじん族・じゃがいも族などの主要な少数民族が支える構造が定着している。(作中では、なすびんキッドがこのなすび族の対立関係について「ほかのやさいたちはかなしいきもちでみている」と説明している。)

主要産業は農業と観光業である。野菜系の民族であることから農耕に関する技術力は極めて高く、農産物の輸出によって高い経済力を維持している。また、国内では農耕文化に関連して大地にまつわる土着信仰が根強く残っており、信仰の場としての古寺社が多く点在している。これらの寺社は観光地として他国民から人気で、観光業の隆盛の理由となっている。こうした事情が国外からの資本・資金の流入の活性化を促すため、経済水準は〈列島〉各国と比べても上位の水準に位置することができている。

登場人物

とんちき坊や
個別記事を参照。

まぬけのろん
個別記事を参照。

なすびんキッド
紫なすびの男の子。デモ遭遇直後のとんちきとろんに出会い、すぐに打ち解けて一緒にボール遊びをした。とんちきとろんになすび王の国の歴史を説明するという重要な役割を担った。この説明の際に放った「みんな仲良くすればいいのに」という言葉はとんちきの心の中に強く残ることとなった。

細かな出自は不明だが、身なりから察するにいわゆるいいとこのお坊ちゃんであるようだ。年齢はとんちきより少し年上。名物のなすぱんが大好物で、とんちきとはその話で盛り上がった。

とんちきに声をかけた青なす
本名不詳。とんちきをへたのとれた青なすと勘違いし、とんちきとろんを青なすのデモ行進へと連れて行った。のちにとんちきが青なすでないことがわかると、「まぎらわしいなあ」と困惑していた。

作中では明かされないが、家具を組み立てる工場の作業員として働いている。反政府デモにはそこまで乗り気ではないが、赤なす政権への不満は常日頃抱いていたためデモには参加した。

総理大臣
なすび王の国の総理大臣。とんちきとろんが訪れた総理官邸で会談をしていたえらい人たちのうちの一人。赤なす党の実力者ではあるが、党内の微妙な勢力図の中で中々存在感が発揮できていない。青なすびによる反政府デモへの対応を協議した結果、非常事態宣言の発令とデモ鎮圧のための軍隊動員の方針を決定した。本人は穏健派であったが、最終的には強硬派である国防大臣に押し切られる形でその方針に同意した。

のちに王太子のクーデターで国王が拘束された現場に居合わせており、自らも憲兵に拘束されてしまった。

国防大臣
なすび王の国の国防大臣。とんちきとろんが訪れた総理官邸で会談をしていたえらい人たちのうちの一人。赤なす党タカ派の代表的な代議士であり、現内閣においても強い影響力を誇っている。青なすびによる反政府デモへの強硬な対応を躊躇する総理大臣に対して、自身の大臣辞任もちらつかせながら武力鎮圧を迫り、結果的に強硬的な方針を押し通した。水面下では、この非常事態宣言の混乱に乗じて現総理大臣を退陣に追い込み自身の政権掌握を狙っていたようだが、最終的には総理大臣同様王太子のクーデターによって失脚した。

官房長官
なすび王の国の官房長官。とんちきとろんが訪れた総理官邸で会談をしていたえらい人たちのうちの一人。丸メガネが特徴的。赤なす党中立派を代表する実力者で、タカ派とハト派の仲立ちを通して現政権をコントロールしていた老獪な政治家。

青なすびによる反政府デモを巡る話し合いでは調整役に徹していたが、最終的には総理大臣の決断に従い強硬策の実行を支持した。作中では、その後非常事態宣言の発令と軍隊の動員方針を記者会見で発表していた。また、物語では描かれていないが、官房長官はのちの王太子のクーデターにおいてなすび族出身の閣僚の中で唯一拘束されていない。

緑なすびの王太子
なすび王の国の王太子(王位継承順位第一位被指名者)。聡明な頭脳と甘いマスクで国民の根強い支持を獲得している実力者である。

元より赤・青両なすびの対立関係に不満を持っていたことに加え、野心が強く注目を浴びることを好む性格だったために現政権転覆のクーデターを計画した。赤トマトの外務大臣をはじめとする反赤・青両なすび派を水面下で統率し、結果として、クーデターによって父でもある現国王を追放し、赤なす政権を打倒して自らを国王とする新政権の樹立に成功した。

やや自分の能力を過信するフシがあるが、生まれ持ってのカリスマ性で周囲のものを惹きつけ行動するリーダーシップを持ち合わせている。

赤トマトの外務大臣
なすび族が大半を占める政府幹部の中で数少ないなすび族以外の出自を持つ大臣。自らの実力のみで権力の階段を昇ってきた苦労人。

作中では緑なすびの王太子とともにクーデターを共謀し、国王・総理大臣の拘束の場にも居合わせていた。現職閣僚ながら、内心では赤なすびによる政権運営には辟易としており、それが今回の王太子のクーデター関与への伏線となっている。

緑なすびの国王
なすび王の国の国王。王としての名はなすごん6世。王太子は長男。作中ではなすびんキッドによる説明のイメージ内と、王太子のクーデターで拘束される際に登場する。

立憲君主制の王として政治の実権は一切持っておらず、儀礼的な役割しか与えられていない。先代国王や実子の王太子と比べると国民の人気はあまり高くはなく、本人はそれを気にしている。現体制の維持が最大の目的であるため、保守主義を掲げる赤なす党とは相性がいいようだ。ただ、そのことが王太子のクーデターにおいて赤なす党政権もろとも追放されてしまう遠因ともなった。

青なすデモ隊のリーダー
青なすらによるデモ隊の首班。無精ひげが特徴的。

とんちきとろんが様子を見に来た青なすらの決起集会にて「青なす労働者救済」を訴える大演説を張っていた。

作中で起こった出来事

出来事についての詳細は五月政変(なすび王の国)を参照。

 
演説する王太子=新国王・なすごん7世

青なす党のなが~いメーデー

なす暦95年5月1日から同月28日まで続いた青なす党が主導した反政府運動の通称。メーデー集会に端を発してはじまり、王太子のクーデターを機に鎮静化するまでの約1ヶ月もの間続いたことから「なが~い」と冠されている。

この反政府運動は、同年4月に施行された赤なす党政権による税制改革への反対デモが拡大した結果発生した。最終的には現政権の退陣を迫るデモへと発展した運動は、政府による非常事態宣言発令と軍隊動員を招き、赤・青両なすびが武力衝突に至る契機となってしまった。

王太子のクーデター

なす暦95年5月27日に発生したクーデター。緑なすびの王太子が主導して決行された。王宮警備隊を動員した不意打ちの実力行使によって、国王や総理大臣以下多数の政権幹部を拘束した。この結果、現政権は崩壊して王太子を首班とする臨時政府が設置された。

第一憲政の終焉

王太子のクーデターの翌日、なす暦95年5月28日、王太子は王宮のバルコニーから市民に向かって演説し、現体制の崩壊と自身の新国王即位を宣言した。そして、新国王としての最初の勅令によって現行憲法の停止と新憲法制定議会の設置を命じ、自ら親政を執ることを国内外に示した。

発表

絵本版【とんちき坊やとなすび王の国】

TAGBOAT ART FAIR 2022 展示

関連項目

【とんちき坊やとまぬけのろんシリーズ】